Architecture - 建築

驚くほど多くの人々が、親しみを感じることのできない建物の中に暮らし、働いています。ウィルクハーンは、疎外された非人間的な環境の中で、ユーザーフレンドリーな家具製品を作ることはできないと考えています。自社工場棟の増築にあたり、「トタンで覆われた機械」と揶揄されるほど無機的で没個性な工場建築の典型とは一線を画す、全く新しい建築物を求めたウィルクハーンは、二人の優れた建築家、フライ・オットーとトーマス・ヘルツォークに協力を仰ぎました。

    トーマス・ヘルツォークの設計による工場棟

    「自然に調和する建築物をつくるべきです。抗らってはいけません」 ― トーマス・ヘルツォーク

    トーマス・ヘルツォークが設計し1992年に竣工した工場棟は、8,000平方メートルの広大な屋内面積にかかわらず、意外なほどに屋内が明るく光にあふれていることに驚かされます。サスペンション構造をもつ3つのガラス張りのホールが、架台のように背の高い4つの建物でサンドイッチ状にはさまれた外観をしており、十字型に入れた鉄筋がサスペンション構造のなだらかな曲線を際立たせています。

    この工場棟は巨大でありながら、ごく細部に至るまで環境に配慮した設計が徹底されています。断熱性の高い特殊なガラスを使用したファサード、ほぼ自然の力のみを利用するベンチレーション・システム、そして太陽光発電装置を備え、温暖化防止と雨水貯蔵のために屋上緑化がなされています。時代に先駆けた構想が多数盛り込まれたこの工場棟は、環境に配慮した建築の見本となっています。

      フライ・オットーの設計による「パビリオン」

      ミュンヘンのオリンピックパークを設計した建築家として、建築関係者でなくとも知名度の高いフライ・オットーは、1987年、ウィルクハーンが生産エリアの拡大を計画した際に、縫製・椅子張り工場の設計を担当しました。

      彼の手により、工場施設の概念をくつがえす、木製の梁で支えられた軽量のテント型屋根を持つ4つのパビリオンが姿を現しました。その形状は有機体の構造に由来しており、周囲の風景にしっくりと溶け込んでいます。内部には心地よく明るい空間が広がり、生産性が高まる、うらやましくなるような労働環境が整えられています。このパビリオン棟は多くの賞を受賞し、中で働く人を重視した産業建築の優れたモデルとして世界的に評価されています。

        事務所棟

        ウィルクハーンにとっての1950~60年代は、多くの優れた建築家とコラボレーションし製品開発を行った時代と言えます。ユップ・エルンスト、ローランド・ライナー、ハンス・ベルマン、ヴァルター・パプスト、ヘルベルト・ヒルヒェ、ゲオルグ・レオヴァルトなどが、ドイツ工作連盟、バウハウス、ウルム造形大学の活動の流れを汲んだ、今までにないデザイン重視のアプローチに挑戦しました。中でもレオヴァルドとヒルヒェとのコラボレーションは家具デザインだけにとどまらず、飛躍的な企業成長を遂げ、施設の拡張が必要となったウィルクハーンは彼らに新たな社屋建築の設計を依頼します。1960年にヘルベルト・ヒルヒェが設計した事務所棟は、むきだしのコンクリートの構造部と木くぎで留められたレンガのファサードが印象的な建物で、現在もウィルクハーンの中枢機能が置かれています。